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やきそば

 風変わりな曲名に、最初は面食らった。その名も「やきそば」。いったいどんな曲なのだろう。16~18世紀の西洋音楽で使われた鍵盤付き弦楽器「チェンバロ」。その繊細な音色を楽しむ演奏会にしては、やや不釣り合いなタイトルのように感じた▼演奏したのは、自作した小さなチェンバロとともに全国を旅し、演奏活動を続ける館林市出身の古楽器奏者・渡辺敏晴さん。桐生市内で19日夜に開かれたコンサートで、そのチェンバロ弾き語りの世界に引き込まれた▼親と離れて山あいの施設に暮らす失語症の子どもが、たった一つ口にする言葉は「やきそば」だった。うれしいときも、つらいときも、楽しいときも、いつもそのひと言。はるか昔に知ったその子の逸話を、渡辺さんが長年温め続けて曲にしたという▼「やきそばって いいな/やきそばって いいね」。ひと言ひと言かみしめるように歌う。「やきそばって なあに/おしえて/だいすき/かあさん」「やきそば やきそば/さよなら じゃあね/かあさん」▼少しだけ長い沈黙の後、聴衆から拍手が沸いた。あの子の頭の中に浮かんでいたのは、母との思い出に刻まれていたのは、どんなやきそばだったんだろう。(
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