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Channel: ウェブ桐生タイムス
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“隠れ家”にて

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 同じホテルに5泊して、毎日ひたすら歩いて美術館や博物館や聖堂を巡った。夏休みの、ひとり旅。だれも知る人のいない街での、自分だけの時間。未知の空間。「スリに注意」の看板も目新しかった▼非日常の朝のスタートに、シャンパンを開けてもらうのが恒例となった。ビュッフェ形式の食堂にポンッという音が上がり、美しい泡が立ちのぼる細いグラスが運ばれてくる。サーモンやチーズやオリーブもある。しかし注いでもらうのは2杯目までと自重する▼ウォトカの国である。クラフトビールも盛んだし各国のワインも。夜は夜なのだから、下戸ではないのだから、そんな日々を続けていたら間違いなく「罪と罰」のマルメラードフだ。居酒屋にすべてをつぎ込み極貧で、酔っ払って馬車に轢かれて死ぬ男。同情する気はない▼高揚感に満ちて街路に出、歩く、歩く。美術館の長い列に並んでいるうちに、心身は平静になる。建築や絵画や工芸品を心ゆくまで見て感じるにも体力は必要で、足早な観光客を横目に丸2日いても見切れなかった▼革命、遷都、戦争、主義、崩壊などの激動を潜り抜けて、そびえる揺るぎなき優美。かつての女帝の“”隠れ家”は世界遺産、人類の宝だ。(流)
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