「高い所に逃げよう」。少年は祖母に叫んだ。こわばった顔で、何度も繰り返す。生まれて初めて聞く、津波警報のサイレン。早朝に響く不気味な音が、不安な思いをかきたてる。まだ5歳の幼い少年には、さぞ怖かったことだろう▼少年の名は鈴木大雅君。2011年3月の東日本大震災と原発事故で、故郷の福島県大熊町を追われた両親が、桐生市に避難してきた直後に生まれた。つまり桐生出身。3歳の誕生日を迎える前、両親や祖父母らとともに、故郷に近い福島県いわき市へ移った▼冒頭の場面は11月22日朝、いわき市沖震源の地震発生時。東日本大震災の余震としては、震災当日を除けば最大規模で、震災後に生まれた大雅君にとって、初めて体験する大地震と津波だった。一緒にいた家族も、震災を思い出して足がすくんだという▼桐生市が今年度行った市民意識調査では、防災の具体的な備えをしていない人が2割いた。食料や水を備蓄していない人も5割に上り、2年前の調査より増えたことが分かった▼桐生にも届いたゆっくりとした揺れに、震災を思い出した人も少なくないはず。5年9カ月前の教訓を忘れていないか。わが身を振り返って改めて見直したい。(針)
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