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「る」の思い出

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 上毛かるたの絵札の中で、お気に入りは「る」。「ループで名高い清水トンネル」の読み札に合わせ、オレンジと緑の国鉄色をした電車が、今にもトンネルに入ろうとしている。山の中腹を見ると、トンネルの出口が描かれている。トンネルの中で、線路はぐるりと輪を描くことで距離を稼ぎ、電車は緩やかな勾配を上る▼関川夏央さんは著書「汽車旅放浪記」の中で、清水トンネルについて記している。かるたの絵札に描かれた大穴と土合とを結ぶループトンネルは、1926年の着工。ループの半径は402メートル。輪を一周する間に46・5メートルの高さを上ることになる。今から90年も前の難事業。開通は5年後の31年だった▼このループを最初に通過したのは高校生のとき。鉄道好きだったのに、新潟方面へはなかなか足が向かなかった。新前橋で乗り換え、上越線を北上して水上駅をたつときの、わくわくとした高揚感は、今も記憶にある。カメラを持ち、あの絵札を思い浮かべながら窓を開け、前方を眺めた▼列車はあっけなくトンネルに入る。それでもゆっくりと旋回している感覚とごう音とが体を包み、不思議な心持ちだった。先日、上毛かるたの絵札を眺めていたら、そんな記憶がよみがえった。(け)
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