思い返すに、自信を持つはじめのきっかけをくれたのは絵だった。小2のときに学校の写生大会で初めて入賞して以来、中学卒業まで一度も選を外さなかった。だが、平凡な模写に多少秀でるからといって〝本物の絵画〟を描けるわけではない▼大学で入った美術サークルには美大を蹴った実力者もいて、世界観を自己表現できる人が目立った。平たく表現すれば作風だ。巧拙は別にしても、ひと目で誰の作品か分かる。そのレベルに達することがとうとうできず、周りがうらやましかった▼有鄰館でお盆期間中に催された「ノンアートから生まれるものは?」展は、挫折にも似たそんな気持ちを久々に思い起こさせてくれた。煉瓦蔵に飾られた数々の抽象画を前にすると、作品そのものが見るこちら側に挑みかかってくるような錯覚を覚えた▼これぞ魂がこもっていると言うべきか。己の内なるものを絵の具ごとキャンバスに叩きつけたような迫力に「こんな絵はどうやっても描けないな」と感じた。アートとノンアートの間の境が実はないのと同じように、障害者と健常者の間にも敷居がないことを訴えんとする展示会の意図が、理屈抜きに伝わってきた。(悠)
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理屈抜きの迫力
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