「仝」という字をご存じだろうか。「同」の異体字で「どう」と読む。古文書では「以下同文」を示すという。その位牌(いはい)を見せていただくまで、恥ずかしながら知らなかった▼位牌とは、70年前の桐生市に大きな洪水被害をもたらしたカスリーン台風の犠牲者のものだ。二つの位牌を埋め尽くす母子5人の名前。「昭和二十二年九月十五日」と刻まれた命日の横に、以下同文を意味する「仝」の文字が整然と並んでいた▼14日付の本紙1面に掲載された、同台風被害を振り返る記事「救えなかった命の記憶」。みなさんにお伝えできなかった写真がある。紙面の都合で別写真が優先され、残念ながら掲載に至らなかった。それが「仝」が並んだ位牌の写真だった▼2011年3月の東日本大震災から100日後、福島県南相馬市から避難してきた被災家族が、避難先の桐生市内で行った葬儀を思い出した。津波で亡くした家族4人の遺影。生後間もない男児と母親、祖父母の写真が、祭壇前でそっと寄り添うように並んでいた▼カスリーン台風と東日本大震災。突然襲ってきた激流に自宅ごと流され、大切な家族を奪われた悲しみが重なる。「仝」の字に込められた遺族の無念を思う。(針)
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