第158回芥川・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が16日夕、東京・築地の新喜楽で開かれ、桐生市出身の門井慶喜(かどい・よしのぶ)さん(46)の「銀河鉄道の父」(講談社)が直木賞に選ばれた。芥川賞は石井遊佳さん(54)の「百年泥」(新潮11月号)と若竹千佐子さん(63)の「おらおらでひとりいぐも」(文芸冬号)の2作に決まった。
門井さんは1971年、桐生市生まれ。3歳まで桐生で暮らし、宇都宮市に転居。同志社大学文学部卒業。2003年に「キッドナッパーズ」でオール読物推理小説新人賞を受賞。大阪府在住。
直木賞には15年の「東京帝大叡古教授」、16年の「家康、江戸を建てる」に続き、3回目の候補。受賞作は「銀河鉄道の夜」で知られる宮沢賢治とその父政次郎の関係を描いたもので、何事にも前のめりな息子への愛と、親としての建前のはざまで揺れる父の姿が浮き彫りにされる。
選考委員の伊集院静さんは「歴史的事実だけでなく、賢治を思う父、父を思う賢治という、人間の感情が非常にうまく書かれていた。門井ワールドと言える短い文章で端的に表し、ユーモアもある」とたたえた。
スーツ姿で会見場に現れた門井さんは「風が来た、飛ぶだけだ!そういう気持ち」と心の高揚を表現。作品について「賢治は天才だが、必ずしも社会的な成功者ではない。子どもを食べさせないといけない父から見てどうだったか」との思いから筆を執り、「物書きはやっかいだなと自分のことは棚に上げて思いました」と話し、笑いを誘った。
歴史好きだった亡き父が徳川慶喜にちなんで付けた名は「評価が両極端な歴史上の人物なので、子どものころはすごく嫌だった」そうだが「歴史を仕事にすることが運命付けられていたのかも。いまはありがたいと思っている」。今後については「ただ歴史が面白いからという目的で書くのではなく、21世紀の読者にとって価値あるものを見つけ、21世紀の文章で届けていきたい」と話した。
市立図書館、特集コーナー設け関連書籍を展示
桐生市の亀山豊文市長は「直木賞のご受賞、誠におめでとうございます。桐生生まれとお聞きし、大変、誇らしく思っています。今後も、尚一層のご活躍をお祈り申し上げます」とコメントを発表した。
また、桐生市立図書館では17日朝、門井さんの特集コーナーを設け、関連書籍を展示。新里図書館にも同様のコーナーを設け、受賞を祝った。ただ、桐生図書館には門井さんの本18冊と、門井さんが参加したアンソロジー26冊があるが、直木賞受賞作をはじめ、多くは貸し出し中となっている。
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