抽象絵画のパイオニアとして桐生のアトリエで創作を続けた国際的な画家オノサト・トシノブ(1912~86年、本名=小野里利信)の、20代の初期作品4点が群馬県立近代美術館に寄託された。なかでも「染屋」は20歳で桐生で描いた具象作品だ。純粋抽象の作風を確立後の3点と合わせ、コレクション展で12月20日まで公開されている。
寄託されたのは「染屋」(1932年)、「人と木と鳥」(33年)、「長崎の船と倉庫」(34年)、「はにわの人」(39年)。市場に出たのを知ったアートギャラリーミューズ(前橋市天川大島町)代表の松村俊二さんが、「群馬県内から出ていくのはしのびない」として、県立近代美術館に寄託するのを条件に個人コレクターたちに仲介。買い取った人たちが条件通りに寄託して、一般に公開された。
オノサトは桐生中学校(現桐高)を卒業後、日大工学部電気科に入学するも、1学期で中退。津田青楓洋画塾に入る。プロレタリア運動の高揚期でもあった。帰郷して描いた「染屋」は、釜からもうもうと湯気の上がる工場内で、上半身裸の3人の男たちが働いている様子をとらえた。
「オノサトと桐生のつながりを現す貴重な作品」と学芸員の田中龍也さん。次の3点も形態の単純化、力強い線の構成、丸の出現など、オノサト芸術の出発点を語る。田中さんは「ベタ丸以前の作品は収蔵していなかったので、今回の寄託はありがたい」とも。
オノサトは42年30歳で召集され満州へ、終戦後はシベリアに抑留され、48年帰国、桐生に戻った。以後、画業を発展させていく。コレクション展では通路の空洞に足かけ7年の空白期間を象徴するようにして、次の壁面に59年、64年、68年の抽象画が展示されている。
同館で開催中の企画展は「戦後日本美術の出発1945─1955」(11月3日まで)。
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