桐生の本町通りを歩いていると、和菓子店の店先で、お雛様を飾り付ける風景に出合った。子どももまじえ、一家の女性たちが和気あいあい、人形たちや調度類を箱から出しては、これはそこ、それはここなどと話しながら、7段のひな壇に飾りつけてゆく。通りを行き交う人びとも足を止め、あいさつがてらお雛様をめでつつ、自身の思い出ばなしなどもしてゆく。
聞けば、2月の第2日曜に開かれる堀マラソンのランナーたちを応援しようと、毎年この時期に飾りつけをしているのだという。遠路はるばる桐生を訪れる走者や、女性の参加者たちに喜んでもらえたらと、おもてなしの気持ちを込めた、店にとっての節目の行事でもある。
ウインドー越しに華やいだ雰囲気が漂えば通りを歩く気分も変わる。堀マラソンの参加者たちも、沿道を彩る春の気配におそらく気づいているはず。日本でも有数といわれるほど長い商店街をメーン会場としたマラソン大会だからこそ、店主やおかみさんの小さな心遣いが、大会全体の印象を特徴づけるのではないかと、そんなふうにも思う。
桐生女子高校を発着点にしていた頃の堀マラソンに参加したことがある。北風と日陰のコース、学校体育の延長のような気持ちで参加したせいもあり、楽しむ余裕もないままに駆け抜けた。それでも、沿道からときおり掛かる「がんばれ」の声援に、励まされたのもまた事実だ。
中心市街地を駆け抜ける今のコースに変わり、参加者の数が増えるとともに、沿道から声援を送る人びとの姿も間違いなく増加した。元来お祭り好きな市民性もあるはずで、こうした市民からの温かいまなざしや声援が、ランナーたちの気分を盛り上げ、走る喜びを増幅させているのも確かなところ。
イベントに参加したときに生まれる喜びとは何だろうかと考えてみる。おそらくそれは予定調和を超えた、思いがけない出会いや発見に巡りあったときに生まれるどきどき感ではないか。イベントの規模が大きくなるほど、主催者や参加者だけでなくそこに緩やかにかかわる人たちの気持ちが大切になる。
店先の雛人形も、そんなどきどきの一つ。もてなしの心でランナーを出迎える沿道の人たちは、ほかにもたくさんいる。
今年の堀マラソン大会は14日。まちなかで生まれる新たな気持ちの交流に期待したい。
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