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Channel: ウェブ桐生タイムス
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春風駘蕩

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 ぽわわーんとした春の日差しが降りそそぐ昼すぎ、車で軽快に川内町を走っていた。よく慣れた道。迷子になることはないし、どの場所で注意が必要なのか、わかっている道。丁字路の「止まれ」を右折すると、前を走る教習車。おう懐かしい、山道教習か▼教習生はいろいろと不安なのだろうね。制限速度にも満たないゆったりペースで、じりじりと坂道を上る。こちらも時間に余裕を持っていたものだから、のんびり構えてついてゆく▼畑に咲くアブラナの黄、ソメイヨシノの薄桃、コブシの白、ダイコンノハナの薄紫、空き地いっぱいに揺れるホトケノザ。ヤブツバキの赤と深緑のコントラストも立体的だ。花だけじゃない。山はもやがかったような緑色。生まれたばかりの新芽の色。横目に流れる色のひとつひとつをとらえて、心に納めて、前を見た▼いつもと同じ道を、いつもと違うペースでゆく。自分には調整できない速度で、誰かに合わせて進んでみる。ただそれだけで、一人きりで歩くよりも世界は広がって、鮮やかさを増す。なんて不思議▼フロントガラスの向こうを、ヒヨドリが横切ってゆく。開け放した窓から、やわらかな春の匂いとともに、鳥たちのさえずりが届いた。(並)
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