時速20キロのゆったりした速度で走る小型電動バスを使い、桐生市宮本町の村松沢の谷あいで暮らす住民たちが社会実験に取り組んでいる。地域内に設けた停留所から電動バスに乗り、上毛電鉄の西桐生駅やJR桐生駅、末広町商店街へと移動をする。買い物をしたり、病院に通院したり、おりひめバスや両毛線、上電などに乗り継いで、その先へと足を延ばしたり、個々の活用目的はさまざまだ。
今年はじめに始まった試験運用は現在進行形なのだが、先日、この試みに注目している群馬大学理工学部の教授らが、利用者を対象にしたアンケート調査を行ったのだという。
回答を集計し、分析する作業が進められており、近いうちに公表されそうだが、教授らの話によると、バスが走ることで住民の暮らし方に小さな変化が生まれているという。ご近所どうしで声を掛け合って、一緒に買い物に出かけたり、小さな空間を共有することで知り合いができたり、なかなか興味深い回答が得られたようである。
先日桐生市で開かれた「地域が元気になる脱温暖化」全国大会で、コミュニティー交通のあり方がさかんに議論されたが、その中で繰り返し問われたのは、誰のための交通なのかということ。コミュニティーバスを導入するとき、運行や運営の仕組みを設計する専門家の役割はもちろん大切なのだが、まずは利用する当事者の視点ありきのはず。でも実際には、利用者たちの声が反映されるケースは、まだまだ少ないようなのだ。
宮本町のケースでは住民どうしがまとまり、バス運行を要望したわけで、主体的にバスを利用しようという当事者意識が強い分、利用率も高い。同じように、足がなくて困っている人たちが声をあげて、知識を持つ専門家と一緒にバス運行の仕組みをつくり、実際に走らせているというケースは、全国で見ればいくつもあるのだという。
もちろん、運賃だけで採算がとれるわけではない。コミュニティーバスをインフラ、つまり地域福祉の一つとみなし、健康保険のように補助金を活用し、利用者の運賃と合わせて運行するのも一つの手。地域貢献策を打ち出したい企業や商店などと協力する視点も大切だ。
いずれ自動車を手放したとき、頼りにできる移動手段をどう育てていけばいいのか。避けて通れない大事な課題である。
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