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Channel: ウェブ桐生タイムス
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最も弱い人たち

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 生まれたばかりの未熟児が、重症肺炎で生死をさまよう。窒息症状だ。弱る長女の胸骨に親指を当て、必死で人工呼吸を続ける両親。呼吸をしてくれ。指に思わず力が入る▼「胸骨の皮がペロリと剥がれた。真っ赤な真皮が現れた。私の心臓を鋭い刃物で抉るような衝撃が走った。『さぞ痛かったろう。しかし、どうか助かってくれ』。私も家内も必死であった」▼一命をとりとめるも、脳性まひとの診断。昭和30年当時、重症心身障害児の医療など存在せず、医学のどの分野でも無視された。約20年後、両親は桐生市境に近い大間々町に、重症児者施設「希望の家」を設立する▼両親とは、社会福祉法人希望の家名誉理事長の矢野亨さんご夫婦。冒頭からの逸話は、12年前に発刊した「矢野亨随筆・論説集」からの引用だ。矢野亨さんの訃報を聞いて同著を読み直した。巻頭随筆を締めくくる言葉に決意がにじむ。「『希望の家』の精神の原点こそ、長女を助けようとして胸骨の皮が剥けた時、私の心に走ったあの悲しい衝撃にほかならない」▼社会的・医療的に最も弱い立場の人が、安心して暮らせる社会であってほしい―。選挙結果を見つめながら、故人の決意に思いをはせた。(針)
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