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世代交代の頃合い

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 リオデジャネイロ五輪が閉幕した。41個という史上最多のメダル数もさることながら、個々の日本人選手たちの戦いぶりがこれほど強く印象に残った大会もまた珍しいのではないかと、個人的にはそんなふうに思う。

 とりわけ、長いあいだ世界の第一線で活躍を続けてきたアスリートたちの試合ぶりやその表情、試合後の言葉には、見る者の気持ちを強く揺さぶるものが多かった。女子レスリングで大会4連覇を目指した吉田沙保里選手のたたかいぶりなどは、その代表例である。

 決勝戦で米国の選手に敗れはしたものの、自分より9歳年上の世界王者に追いつこうと練習を重ねてきた24歳の若手と真っ向勝負をして敗れ去るという筋書きには、無念さに加え、どこかすがすがしさがにじんだ。

 どんなに鍛えても、人の体力は加齢とともにゆっくり落ちてゆく。その分、心と技を磨き、蓄積された経験を武器に、アスリートたちは限界に挑む。ただ、若い力はつねに先を歩む人の後ろ姿を追いかけてくる。どこかで追いつかれるのは、いわば必然でもあり、そうした瞬間に立ち会えるのが、4年に1度というペースで開かれる五輪の醍醐味でもあるはずだ。

 試合直後、敗れて申しわけないと謝る吉田選手の姿に、届かずとも何か言葉をかけたいと思ってはみたものの、ではどんな言葉がふさわしいのかと探してみても、ありきたりな言葉しか見つからず、ただ見守るしかなかった。同じ思いをした人も多いのではないだろうか。

 言いわけを含まないまっすぐな言葉や涙の前で、問われているのはいつでも見ているこちら側の姿勢なのだと改めて思う。

 体操の内村航平選手が、同僚の加藤凌平選手や個人戦で接戦を演じたウクライナのベルニャエフ選手を見つめるときの柔らかな表情もまた、すばらしかった。厳しい競争で先頭に立つことなどなかなかない身としては、頂点に立ち続けることの喜び、苦しさ、寂しさといった感情に思いを巡らすことは難しい。それでも、戦い終えたトップアスリートたちの表情や言葉には、「うれしい」や「くやしい」といった単純な感情には盛り切れない多様な何かが含まれていると、私たちは感じる。

 受け取る感覚が多様であることもまた、平和の祭典の証しであるはず。4年後の東京五輪に期待をかけたい。 
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