どうしてこんな山奥に家があるのだろう 、不便だろうなと、山間部に入るたびにそ う思っていた。学校や商店や医者や公共施 設から遠く離れた山奥にひっそりとたたず む集落があり、人の暮らしがある。それを 不思議に思うこと自体、都市生活者の一面 的な見方なのだろう▼答えは簡単。昔は山 奥のほうが便利だったのだ。きこりや炭焼 きなど山の仕事で稼ぎ、畑を開いて自給自 足生活を送る。戦前まではそれが当たり前 の暮らしの風景だった。要はそこに仕事が あり、豊かだったから、村ができたのだ▼ 桐生市梅田町四丁目の皆沢地区を久しぶり に訪ね、そんなことを思った。梅田湖から 東へ2㌔、栃木県佐野市との境界付近にあ る全16戸の小さな集落。ここに江戸時代 から伝わるという「百万遍念仏」を取材し た▼桐生市指定無形民俗文化財の一つであ る悪疫退散の民俗信仰。従来はお盆明けの 8月17日だったが、若手や地区外に出た 人たちが参加しやすいようにと今年から「 17日の直後の日曜」に日程を変更した▼ 数百年にわたり連綿と続く風習が、急速な 時代の変化に脅かされている。消えてしま いそうな村の習わし。だが、参加している 人たちの笑顔は夏の日差しよりもまぶしく 見えた。(成)
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