季節の変化をいち早く感じさせるものは風である。つい先日までの汗ばむような陽気の中でも、風にはすでに秋の深まりを感じさせるにおいがあった。
このところの気温の上がり下がりで、難しくなっているのが身じたくや生活全般の調整のありようだろう。体調を崩しやすいのはこんなときである。
夏の疲れは出てないか。寝具の寒さ対策は大丈夫か。もう一度身の回りを見直し、風の変化をしっかり感じたいところだ。
「風」という字は古くは鳳のような、神聖な鳥の形がもとになっているそうである。風は方神の使役する鳥の羽ばたきで起きると考えられていたらしい。
その風によって「風土、風俗が決定され、風光、風物、風味が生まれ、その地に住む人の性情にも深く作用して、風格・風骨を形成するとされた。それが歌詠に発するものは風、すなわち民謡である。風の字のもつ多様な訓義は、このような古代風神の観念から、おおむねこれを解することができる」(白川静「字統」)と、この解説はおそらく、洋の東西を問わず実感が伴うことだろう。風は自然と人間の生活との媒介者なのだ。
答えは風の中にあると、そう繰り返して、1960年代に多くの若者たちの心をとらえた名曲といえば、ボブ・ディランさんの「風に吹かれて」である。
フォークギターの弾き語りとハーモニカで旋風を起こし、その支持勢力がロックの世界に融合する過程においても先導し続けた。「ライク・ア・ローリング・ストーン」「時代は変わる」など、忘れがたい曲は多い。
そのディランさんが2016年のノーベル文学賞に決まったと13日、スウェーデン・アカデミーが発表した。歌手の文学賞受賞は極めて異例のことらしいが、それを現実のものにした力の存在は想像に難くない。このニュースを聞き、さっそく語り始めているであろう市井の人々の顔が浮かぶのだ。特に、時代の困難に向けて発した詩の影響力は団塊の世代に絶大だった。
世の中には確かに風向きというものが存在する。そしてその風向きによって大事なことが決定付けられていくのが世の習いであるとも感じている。
吹いてくる風の向きをどう判断するかは一人ひとりの裁量に委ねられていることだ。答えは風の中にある。その詩が持つ普遍の力。この受賞を機にいっそう見直されてほしいと思う。
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