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日本シリーズ第3戦に思う

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 今季限りでの引退を表明したプロ野球広島の黒田博樹投手が25日の日本シリーズ第3戦に登板して極限まで投げ切った。

 「僕に残された球数はそんなにない。日本で、カープで野球をすることの方が一球の重みを感じられると判断した」。昨年1月、広島を選んだ決め手を記者会見でこう語ったが、信じるものを積み上げていこうとする渾身の一投一投はまさにその言葉どおりの実践だったと思う。

 そして3番指名打者で先発した日本ハムの大谷翔平選手に2打席連続で二塁打を打たれ、3度目の勝負で飛球に打ち取った直後、足の張りで自ら降板を選んだ態度にも、ゆらぎない決心が感じられたのである。

 真剣勝負に身を置いてきたものが最後までそれを貫くことができるのはおそらく幸せなことだろう。黒田選手もきっとそう思っているのではあるまいか。

 本場所で敗れて「気力、体力の限界」と言って引退を決意したのは亡くなった横綱千代の富士だが、野球はなかなかこうはいかない。しかも日本シリーズという最高峰が引退の舞台となる展開自体、望んでかなえられることではないからである。

 用意された引退試合とは決定的に違う雰囲気の中に、自らの野球人生を集約する「残された球数」を持ち込めた。納得のいく形を見届け、ベンチに引き上げていく寡黙な背中が、引退というより、彼自身が新しい道に踏み出そうとする瞬間と見えたのは気のせいではないだろう。

 球界の若い世代の代表である大谷選手にとって黒田選手は憧れだそうである。その彼がサヨナラ安打を放って日ハムが勝利をものにしたことも、ある意味で引退を飾った花だったと、そんな気もしたのである。

 目標とする選手がいる。それはとても重要なことである。人にはそれぞれの世界があって、生き方も違い、仕事も千差万別である。誰もがその目標に近づけるとは限らないし、むしろ至らないケースの方が多いのが現実かもしれないが、多くの人の心が手本となりうる存在を持てるなら、そういう世の中が住みにくくなるはずはない。

 黒田選手は天才肌の選手ではない。実践と自己管理の人である。こういう人はどんな領域にもいて、それがこの選手に支持が集まる大きな要因であると思うのである。勝敗を越えたところに醍醐味があった点で、実に見どころが多い試合だった。
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