Quantcast
Channel: ウェブ桐生タイムス
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2430

コンパクト化の課題

$
0
0

 えびす講で熊手を売る露天商と立ち話をした。縁起をかつぐ飾りものは、昔と変わらぬ風景のように見えるが、10年単位で眺めてみれば、小さな変化はあちこちにあるという。熊手のデザイン一つとっても、徐々に変わっているのだそうだ。

 昔の熊手はもっと横に広く、面積で華やかさを演出していた。それに比べると最近のものは横幅がせばまり、その分、奥行きを持たせるような形に変化している。縁起物の飾りも折り重なるようにして密集させ、立体的に造詣されているのだそうだ。言われてみれば、たしかにぎゅっと詰まっており、かたちも円形に近づいている。

 見た目の華やかな印象は変えることなく、できるだけ飾る場所をとらない形を模索する。買い手側の要望にこたえようと試行錯誤する、つくり手たちの小さな工夫が見えるようで、ずらりと並んだ熊手のデザインをしばし見比べて楽しんだ。

 時代とともに私たちの暮らしのサイズ自体が変化しており、よりコンパクトなものを求める傾向にある。これは実感でもある。神棚にまつるお宮を扱う露天商の夫妻は、今ではめっきり売れなくなったと、あきらめ顔で語っていたが、アパートやマンション暮らしでお宮を置くスペースのない家庭も増えており、これも仕方のないことか。

 コンパクトなものを開発するには、それなりのアイデアが欠かせない。そこは日本人の得意とする分野でもあり、サイズを落としながらも性能や品質は向上させようと、逆境の中から新たな技術を生み出すといった事例には事欠かない。資源に限りのある国だからこそ、コンパクトを求める価値観がはぐくまれるのだが、技能者たちが知恵を生かして工夫をこらし、その価値観を補強してきたのだと、とらえることもできるだろう。

 人口減少が続き、まち自体のコンパクト化が大きな問題になっている。はるか昔、祖先たちが林野を開拓して住み着いた地域だが、周縁部で空き家や耕作放棄地が増えれば、開拓前に暮らしていた野生動物たちがふたたびその地に入り、生息域を取り戻そうとする。イノシシやサル、シカ、クマと人間との衝突も、こうしたコンパクト化の一現象なのだと思う。

 知恵と技術で乗り切れるほど簡単な問題ではないが、避けて通ることもできない。丹念に解いていくしか方法はない。
関連記事:


Viewing all articles
Browse latest Browse all 2430

Trending Articles