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教師の役割とは何だろう

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 東日本大震災に伴う福島第1原発事故の影響で、新潟市に避難している小学4年の児童に対し、教師が名前に「きん(菌)」をつけて呼び、児童が不登校になっているとの報道があった。

 夏休み前、児童は同級生から菌をつけて呼ばれていることについて、教師に相談を持ち掛けていた。11月に入り、福島県から横浜市に自主避難していた中学生が、同じように名前に菌をつけて呼ばれ、いじめにあっていたことが報じられた。自分も同じ境遇にあるのではないかと不安を覚えるのも無理はなく、再び教師に相談した矢先、福島が震度5弱の揺れに見舞われ、津波警報の発令された日に、教師は前述の発言をしたという。

 思い切って相談をした教師の口からの思いもよらぬ発言に、児童は戸惑ったはずだ。それまで寄せていた信頼が裏切られたとなればショックも大きい。

 悪気はなく「愛称のつもり」で呼んだという教師の話は、おそらく本音なのだろう。「菌」のつもりではなかったとの声もある。ただ、そのタイミングで絶対にしてはいけない言葉づかいを、つい口に出してしまうという、おそらくはいつもの乗りに任せたような言動にうそ寒いものを感じる。口に出す前にいったん言葉をかみしめてみる、そんな間さえ保てないのも、今という時代の一面なのだろうか。

 いじめ問題でつらいのは、いじめを受けている当人が、集団の中で孤立無縁なのだと感じてしまうことだ。イギリスの経済学者で哲学者のアダム・スミスは、自分の感情や行為を他人から認められたい、否認されたくないと願う気持ちは、人類に共通する真理だと述べている。

 学校の中で、教師は子どもにとっていわば世間の役割を担う存在でもある。同調圧力の強い人間関係の中で孤立し、自らの存在に不安や疑問を抱いてしまった子どもが、教師にその不安をほのめかしたとき、その子の行為や感情を肯定することが、まずは教師の役割であるはず。憲法が保障する人権とは何なのか、身をもって伝える場面でもある。もちろん、いじめに対する対策も必要になる。

 東日本大震災から5年が経過したが、福島ではいまも原発の廃炉や除染の作業が続く。避難生活が長引く一方で、避難者の境遇に対する世間の配慮や共感が薄まりつつある。学校現場での避難者いじめも、その影響か。教師の役割は今こそ重い。
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