「仏の世界は、こんなに楽しいものなんですね」―。「お地蔵さま」で知られる観音院(桐生市東二丁目、月門快憲住職)の本堂に、襖絵(ふすまえ)が完成した。京都市在住の滝口和男さん(63)が墨の濃淡で一気に描き上げたもので、見守っていた月門住職らも、子ゾウが群れ成して8枚の襖の表裏を笑いさんざめきながら駆け巡る想定外の絵柄に、感心しきり。滝口さんは会心の作に「子像群天地輪廻戯遊図」と命名。同寺では22日に完成披露を行うことにしている。
観音院では、所蔵する渡辺崋山のおい岩本一僊の大作「水中行路之図」の表装替えを契機に、何も描かれていなかった本堂の襖の“芸術化”を計画。かねて交流のあった陶芸家で、オブジェや書画も手掛けて世界的に活動の場を広げる滝口さんに依頼し、実現した。
「お寺の襖絵は初めて」という滝口さん。徳島県の拝宮和紙を張り、ラフに下書きをして、筆をとって一気に描き進めたのはゾウの群れだった。本尊の両側4枚ずつの襖を右から左へ、上から下へ、また左から右へと楽しそうに駆け巡る子ゾウたちを、月の中のウサギが観音様のように見守っている。
ゾウは仏教とかかわりの深い生きもので、白ゾウが摩耶夫人の夢に現れて釈迦(しゃか)の誕生を予言したという。「獅子や龍は権威的で好みでないし、赤城と月とか山水も考えましたが、子どもたちにも親しんでもらおうと、ゾウとウサギにしました」と滝口さん。自身の陶芸作品にも登場する親しいモチーフだ。
「浮かぶもの、沈むもの、太いのにやせてるの。いろんなゾウが増殖しました。縁起のいい7の倍数にして、本堂を駆け巡ります」。一頭一頭見飽きることなく、壮大な宇宙が出現するようだ。「荘厳な本堂が楽しい世界に変わったようです」と月門住職も喜ぶ。
22日の完成披露には、熊谷市立図書館の「毛武と渡辺崋山展」に出品されていた一僊の作品も戻り、展示する。こちらはさまざまな羅漢たちが経典を背負うなどして川を渡って行く図で、これまで公開の機会がなかった大作だ。問い合わせは同寺(電0277・45・0066)へ。
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