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技術と表現

 取材先で箏曲家の話を聞いた。筝を弾くどころか、触れたことさえない身である。邦楽を耳にする機会はもちろんあるが、楽器に触れるチャンスが過去にどれだけあったのだろう。思い返してもそれほど多くはなさそうだ▼邦楽に限らない。ドラムセットを叩いたこともなければ、トランペットやバイオリンで音を出したこともない。オルガンやギターならば義務教育の授業で習ったか。リコーダー、ハーモニカ、大太鼓、シンバル…。楽器体験は限られている▼そういえば油絵の具で絵を描いたこともない。岩絵の具なんてさらに遠い。美術館で目にするエッチング、リトグラフ、ドライポイントといった技法にも触れたことはないし、試してみようと思ったこともない。名前だけは知っているし、何となく理屈はわかる。考えてみれば、そんなことばかりだ▼体験の機会があることは大事で、先述の箏曲家も教育機関などに働きかけ、若者が楽器に触れる体験を増やそうと努めている。表現したい何かが初めにあるとは限らない。道具に触れることを通じて、表現したいものが生まれてくる。むしろそちらの方が自然か▼体験のチャンスを逃さずつかまえられるよう、柔軟に構えていたい。(け)
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