笑みを絶やさないその人は、電話の声も穏やかさを含んでいる。仕事上の付き合いで、公の場でしか会わないから、本当のところは知らないけれど、「平らな道を歩いてきた人」という印象だった▼変わったのは、その人が自殺予防講座の講師を務めたとき。社会福祉士として登壇し、一般的な講演と同じくモデルケースをもとに解説する。ただ違ったのは、本人の体験を事例として紹介したことだった。自殺を図った父親について、取り巻く家族について、経験を語る▼生々しく、激しい内容なのに口調は淡々と、ときにユーモアを交えていた。専門職としての務めだから当然なんだろうけれど、自らの体験と感情をさらけ出す強さ、そのうえ過去の自分に同情しない客観的な姿勢に、尊敬しかなかった。穏やかさのなかに、計り知れない経験をのみ込んだ強さが入り交じっているのだと知った▼いつも笑顔の人だって、常に表情そのままの状態にいるわけがなくて、逆もまたしかり。せわしない毎日では、こんな当たり前のことも忘れてないがしろにしがちだけど、大切にしていたい▼講演の後、「何をのみ込んでも消化して、できれば笑顔を絶やさずに」。自分を省みて、そう思ったのだ。(並)
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