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まちの活力を生む原点

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 哲学者の内山節さんがかつて桐生で語ったことで、いまでも印象に残っている話がある。

 それはヨーロッパの、自然と歴史と文化と自治の分かちがたい関係の中から生まれている暗黙の合意、価値観のことだ。

 たとえばフランスは人口が日本の半分くらいだが、市町村の数になると日本の10倍はあるという。ドイツの国づくりにいたってはもっと厳格で、人口30万人を超える都市の規模はむしろマイナス面が大きいと考えている。一方で国民の側は、住む土地の自然と歴史と文化を誇りに思い、そこにしっかり軸足をおいている。だから、1、2時間でいける周辺に5万人規模のまちがいくつかあって、1日かけて行ってこられる範囲内に30万都市がひとつあればいいと考える。自然と歴史と文化に育まれた高い自治意識である。

 この話がなぜ印象に残ったのかといえば、人口規模といい条件といい、桐生のまちにもあてはまることだと思えたからだ。

 日常に必要なものはもちろんのこと、たいていのものはそろう環境がこのまちにはある。さらなる品ぞろえ、あるいは娯楽施設を求めるなら、一日あればいろんな大都市を往復することが可能な立地である。自然は豊かで、伝統産業が長年にわたって育んだ技術も多彩である。

 桐生市の人口はいま11万5千人台である。都市間競争が繰り広げられる現代にあって、より大きくすることによって都市の力をつけていきたいという願いはいまもって根強い。

 そのことの是非を、生活習慣や文化も違うヨーロッパと並べて、語ることはできない。桐生での暮らしが他都市と比べて不便さがあることも事実である。

 しかし、悲観的な要素や足りないものに目を奪われず、このまちのよさは何だろうと、そういう足元の再発見を重ねていくことが自治意識の高まりにつながる関係性は、ヨーロッパも日本もさほど違いはないだろう。

 2017年度の市の当初予算案に盛り込まれた広域周遊観光促進事業は、市内観光客の動向調査が主体になっている。外の人がこのまちをどのようにみて、どこに魅力を感じるのかを洗い出し、市内観光の強みと弱みを再認識することで改善点を見いだしたいという趣旨だ。

 市民がふるさとの環境に心から誇りを持てれば活力はしぜんと生み出されてくる。そこに原点を持つ事業と受け止めたい。
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