被災地の写真をじっと見つめる人がいる。桐生市役所ロビーで10日に始まった宮城県石巻市の震災写真展。その桐生市在住の50代女性に声をかけると、「去年の秋に夫婦で訪ねたばかりなんです」と、穏やかに話し始めた▼息子の住む仙台市を訪ねた際、たまたま足を延ばした石巻市。まちを見渡す高台の公園に着く。傍らにいた被災者と知り合い、震災当時の実体験を聞いた▼公園によく来るという年配男性。地震直後に息子と公園に逃げたが、近くの幼稚園に通う孫の姿が見えない。心配して様子を見に下りた息子は、津波に流されて今も行方不明だという▼園の送迎バスも津波で流され、5人の園児が命を落としたが、孫は別の場所で無事だった。年配男性の口調に無念さが募る▼つらい話を思い出させたことを詫びると、「聞いてくれてありがとう」と礼を言われた。「被災者の話を聞く。思いに寄り添う。被災地に縁のない自分にも、できることあるんだなって」。あの公園にまた行きたいと、女性は熱っぽく語った▼身近な人を亡くした人、ふるさとを追われた人、その思いに寄り添う人。それぞれに震災の風景がある。それらを一つひとつ丁寧に、伝えていけたらと思う。(針)
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