桐生新町重要伝統的建造物群保存地区に選定されて5年になる桐生市本町一・二丁目で、民家や長屋、蔵などの建造物の修理修景が進んでいる。桐生市の補助金を受けた件数は2013年度から4年間で25件で、当初は老朽化に加えて2011年の東日本大震災による被害の修理が主だったが、ここ数年は伝統的建造物を保存活用するための修復に移ってきた。多くを手掛ける1級建築士の大内栄さん(60)=本町二丁目=は地元「商盛会」会長でもあり、「直して使って残す、成功事例を増やし、住んで魅力あるまちにしたい」と語る。
桐生新町重伝建は約400年前の町立て敷地割りが残り、近代以降の織物業の発展とともに店舗、事務所、蔵、ノコギリ屋根工場、住宅、長屋、防火壁、稲荷社など多種多彩な建造物約400棟が立ち並ぶ。うち6割が幕末から昭和初期までの建造。人口の少子高齢化も加速している。
桐生市教委文化財保護課の重伝建係によると、地区内の修理件数は13年度9棟、14年度7棟と工作物1件、15年度3棟と修景(伝統的建造物以外)1棟、16年度4棟。徐々にだが着実に進んでいる。
昨年度に修理を終えたのが旧長谷川染物店(本町二丁目)。昭和3(1928)年建築で、長く文具店が借りて看板建築になっていたが、昭和初期撮影の写真を参考に当時の姿に修復された。
明治30年のすごろくに「萬染物所、長谷川幸作」と載る。「曽祖父になります」と現所有者の長谷川勲さん(72)=境野町一丁目。「一般の民家や商店は残らない。子ども心にも栄えて活気があった時代を知っているので、重伝建になって残せるなら残したいと思いました」という。
修理は補助率8割の補助金の関係もあり、2年がかり。建物を持ち上げコンクリートで基礎を作り、耐震の鉄骨を入れ、看板をはずして2階の出窓と手すりを復元。下屋も瓦ぶきで外壁は板とねずみしっくいで仕上げた。
「直して貸す提案をしています。後継者がいなかったり東京近郊に出ている建物が多く、残すには新たな入居者が必要。修復資金がなくても、家賃収入でまかなっていく」と大内さん。旧長谷川染物店にはすでに入居者が決まっていて、今年度に内装を進める。
同様の事例に金筬(かなおさ)工場だった石蔵の帽子メーカー、木造長屋の喫茶店があり、いずれも昭和初期の建物が生かされている。この地区に住んでものづくりをしつつ店を開きたいと希望する若い世代から数件問い合わせがあるという。
「直せば使える。使えば魅力がわかる」と大内さん。伝建地区ゆえの制限を見据えつつ将来像を描いている。
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