宮沢賢治の「虔十(けんじゅう)公園林」を朗読で聞いた。イトウヤコーヒーファクトリーで開かれ た渡辺祥子さんと佐藤正隆さんの「朗読とクラシックギターのコンサート」の一こま。柔らかなギターの調べに乗せ、語られる物語は影絵となって頭の中に浮んでは消えた▼中学生のころ、宮沢賢治の世界 にのめりこんでいた。透明な下敷きにはアイドルの写真や人気漫画のイラストの代わりに「春と修羅」 の詩を挟んでいた。なぜ、そこまで引かれたのかは今でも分からないが、「恋」のようなものだったと 思う▼「恋」だからこそ、自分の思いと違うものに出あうと、ショックを受けた。強烈な熱情は次第に 冷め、いまも好きな作家に変わりはないが、最近ではその作品を読むことはなくなっていた▼「虔十公 園林」は恥ずかしながら読んでいなかった作品の一つ。「銀河鉄道の夜」をオーケストラとするならば 、室内楽的と評されるという。確かに「グスコーブドリの伝記」などに比べると、聞き終わったときは あっけない思いがした。が、心に感じたぬくもりは1週間たった今も消えずに残っている▼賢治の作品はどこか雨の日に似合う。もう一度、読み返してみようか。(野)
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