目の前に光の当たったリンゴがあるのに、私たちは普段食べているリンゴや店頭のリンゴのことを考え、描いている。知人の画家は、概念に惑わされない目こそがスケッチの力だと言った▼「理想や願望でなく、ありのままの事実を見るべきだ」。これもどこかで耳にして、心に残った先人のことば。そうした曇りなき目を持ちたいと思いつつ、現実の視点は定まらず、先入観でつい帳尻を合わせてしまったりという日常である▼行政文書の真偽をめぐる加計問題の報道を目の前のリンゴのつもりで眺めている。会見に踏み切った文部科学省の前事務次官が本物だと語れば、政府関係者や現役官僚らはすぐにその発言を否定して、真相はいまもやぶの中という印象のままだ▼でもウオッチングで気づいたことがふたつある。ひとつはいったん腹を固めた人間の心は態度に表れると感じたこと、ひとつは多勢に無勢のアンバランスは知りたい答えとはあまり関係がないということ。これはスケッチ力か概念か、どちらだろう▼「アインシュタインに反対する100人」という本が出版されたとき、博士が言ったことばは有名である。「私がまちがっているんだったら、一人で十分じゃないか」(葉)
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ウオッチング
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