準天頂衛星「みちびき」の2号機が1日、所定の軌道へ無事に投入された。政府は今年度中にさらに2基を打ち上げて4基体制とし、ゆくゆくは7基体制で日本独自の衛星測位システムを構築したい考えのようだ。
位置情報はいまや日常生活に欠かせない存在である。さらなる精度の向上と、米国のGPS(全地球測位システム)頼みになっている日本の位置情報サービスの改善整備と、みちびきが担う役割と期待は大きい。
準天頂とはほぼ真上という意味である。そして4基のうちの1基が常に日本の上空にとどまるようにすれば、電波は障害物に遮られにくくなり、受信機の位置情報は高精度となる。当面はGPSの誤差を6㌢ほどに収めて、来春からの運用である。
応用研究は活発で、自動運転車の実用化や、大型の農機を無人で動かしたり、ドローンの宅配をピンポイントで可能にしたり、高齢者の居場所を見守るサービス、さらに障害者の外出時のサポートと、今後、活用の分野は飛躍的に広がりそうだ。
試験的取り組みを報じるテレビでは、目の不自由な人が位置情報端末の音声ガイドで障害物を避けて進む姿を映し出していた。一日も早くそんな世の中になってほしいと願う半面、いったい世の中がどこへ向かっていくのか、想像が追いつかない分、不安もつきまとうのである。
例えば不合理で非生産的な領域が効率の一声ではなかなか変わらないのは、そこが人の生きがいに直結していたりするからだと、手間の効能は社会でも認知されている。気がかりなのはその部分の今後のありようだ。
歴史的に、人は道具を使いこなすことで進化してきた。頭脳の働きを高め、繊細な体の機能も獲得してきた。新たな科学技術の誕生がそうした機能の幅をもっと広げる方向にあれば、人はいっそう努力する。しかし近年の技術革新は、さらなる知識を必要としながらも、体の動きに関していえば複雑さをむしろ単純化する傾向にあって、効率化が図られるたび、決まってその領域は窮屈さを増していく。
もちろん技術革新の流れは止められない。享受するのも当然のことである。でも、ほかの選択肢を軽んじてほしくはない。
雑木林も黒木の森も混交林もある。みちびきは、いろんな選択肢を認め合い、それぞれが自分の道を歩けるような社会の標 となってほしいものである。
関連記事: