「くじらの町」として400年の誇りを持つ和歌山県太地町。捕鯨をめぐる世界的論争に巻き込まれたその小さな漁師町を、ニューヨーク在住の日本人女性監督が見つめたドキュメンタリー映画「おクジラさま ふたつの正義の物語」が、9月に日本公開される。ポスター原画を手掛けたのは桐生高校出身の画家、山口晃さん(47)。捕鯨の賛否という単純な図式を超えて、さまざまな人たちの立場や意見や思いが交錯する映画の内容をよく表現しており、ポスター自体、早くも人気という。
過激な抗議活動で知られる「シーシェパード」の活動家らが太地町に集まるようになったのは、追い込み漁を糾弾する映画「ザ・コーヴ」がアカデミー賞を受賞して以来。日本の古式捕鯨発祥の地で、代々捕鯨にかかわる仕事で生計を立て、戦後の食糧難を救った鯨類に感謝して生きてきた町で、活動家らは漁師たちを執拗(しつよう)に撮影してネット配信、報道陣が詰めかけ、世界中から非難のメッセージが漁協や役場に殺到する。
相いれない立場の人びとを偏ることなく正面から、テンポよく描いたのは佐々木芽生(めぐみ)監督。制作に6年間をかけ、「伝統文化」や「環境NGO」の実態、動物の命と食料、水族館の在り方、情報発信力の圧倒的な差にも言及した。
「なぜ日本はクジラやイルカのことで世界の非難を浴びるのか。その答えを探すために太地に通っていたら、今、世界が抱えている多くの問題にぶつかった」と佐々木監督。習慣や考え方や価値観が異なる人たちを「排除」するか、それとも「共存」できるのか。
前作はつつましい給料で世界屈指の現代アートコレクションを築いた公務員夫妻を描いた「ハーブ&ドロシー」。山口さんとは2014年にNHK WORLDの番組「Art Time Traveler」で出会い、今回の映画ポスター依頼につながった。
山口さんにとっては初の映画ポスター。太地町で古くから行われてきた捕鯨の絵巻や、押し寄せる活動家、報道陣、町長、警官、街宣車に乗った“右翼”にランドセルを背負った小学生…、黄色い雲間に、映画の時間97分を凝縮するように登場人物が描き込まれている。
「一人一人に寄り添う佐々木監督の姿勢を尊重し、絵に関しても自分なりに監督に沿うという姿勢で臨んだ」と山口さん。「欧米の方々もご覧になることを前提に、色使いを地味にするよりコントラストがはっきりするよう心がけた」「“何“が描かれているかだけでなく、絵が〝どのように〟描かれたか伝わるよう心がけた」としている。
日本での公開は9月、東京・渋谷ユーロスペースから、順次全国で上映される。
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