子どもの頃、下校途中に立ち寄る場所があった。学校でも家でも、まっすぐ帰るよう教えられているのだが、寄らずにはいられぬほど魅力的な場所は多かった。例えば遊具のある公園、昆虫のいる水路沿いの小道▼校区の中にただ1軒存在した本屋さんもまた、子ども心を引き寄せてやまぬ場だった。雑誌コーナーを抜けると一般書籍が並ぶ。レジ脇には漫画コーナーがあった。漫画はあまり読まぬようにと親から言われて育った世代である。いや、直接言われた覚えはないのだが、そんな気配が漂っていた▼でも漫画はおもしろい。帰りがけに一人書店に立ち寄り、一般書の背表紙をながめてから、ついでなんですといったそぶりで漫画コーナーに足を向ける。店の主人も見て見ぬふりで、ときどき様子をうかがいながらも、放っておいてくれた。だからときどき本を買うときは、どこかほっとした気分になった▼その本屋さんもしばらく前に店をたたんだ。それは全国的な傾向で、書店は驚くほどの勢いで減っている。書店ゼロのまちが全市町村の約2割に上るのだと、朝日新聞が報じていた。ずらりと並んだ背表紙のタイトルから、社会が見え隠れする。そんな機会も失われていくようだ。(け)
関連記事:
↧
本屋の思い出
↧