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光の布たち

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 まろやかにころがる玉露の甘み。小池魚心の版画や秀島由己男の「霊歌〈影〉」に見守られ、世界各地の民族資料や布や本たちに囲まれた空間低く、新井淳一さん自らつぎわけてくれる茶のあたたかさを忘れない。不世出の「夢織人」だった▼1994年から2年余、50回にわたって本紙に連載してもらったエッセー「縦横無尽」は、スウェーデンから始まって欧米、豪、印、韓国と地球を回り、展覧会や講演や技術指導などで新井が最も多忙だった時期だ。思索の深みをファクスの文字から必死に読み解ろうとした▼桐生市市民文化会館の建設も渦中にあった。新井の旗振りに盟友シーラ・ヒックスやピーター・コリンウッドも駆け付け、多くの市民の協働で未来への宝が生み出された。世界最高峰のテキスタイルアートがここに掲げられたのだ▼人は産着から死出の装束まで、布に包まれる。新井は民族衣装に魂を揺さぶられ、金銀糸は機屋3代のつきあいといい、「伝統を知らずして何の先端か」と啖呵を切った。桐生人としての誇りは、生きた産地のただ中に開かれた染織美術館の希求に直結する▼中国の個展会場では、「私は光を染めたい」と語った。未来は私たちの手の中で育まれるのだ、と。(
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