体格に比べてひときわ大きい手足や顔。桐生が岡動物園の愛らしい子ライオンの写真が11月30日付の本紙16面を飾った。7月に誕生し、すくすくと育った3頭の愛称が「オリト」「シルク」「つむぎ」と決まったのだ。
動物は成長と共に、個性が見えてくる。母親に甘えたり、元気に遊ぶ姿が人々の目にとまるようになったころ、そうした来園者を対象に名前を公募した。
応募は4000を超えたそうだから、関心の高さがうかがえる。きっと、みんなで相談しながら知恵を絞ったに違いない。
織都を「オリト」と読んだオス。メス2頭には紡ぐと絹織物のイメージを重ね合わせた。選考は職員が織物文化にちなんだ名に重点を置いたという。
今後、多くの来園者に親しまれ、ゾウのイズミのようにそれぞれ名前で呼ばれる存在になってもらいたいし、織物に密接な名の由来を、ことあるごとに意識していきたいものである。
桐生出身の由紀さおりさんはいまや日本を代表する女性歌手である。先日テレビを見ていたら、自身の芸名の由来を聞かれた場面で「桐生が織物のまちですから、さおりは織物を意識しました」と語っていた。
その話を聞いたとき、身体にジンとくるものを感じた。幼いころに離れた故郷桐生は由紀さんにとって、いまでも変わらず織都であって、そのことを大事にしてくれていたからである。
高度成長期の歌謡界で一世を風靡したコロムビアローズさんは、西条八十さんが名付けてくれた「桐生絢子」で華々しくデビューすることになっていた。
絢子も織物にちなんだ名前である。作詞界の重鎮が期待の新人のためにこの名前を用意したというところに注目すれば、当時の桐生の位置づけと織物の関係性がはっきりみてとれる。だが、覆面歌手コロムビアローズという仕掛けがあまりに話題になりすぎたため、桐生絢子は日の目をみなかったのである。
時代は変わり、桐生織物の栄光は今は昔の話となった。けれども、刻々変化する国際経済の荒波にもまれながら活路を開いた分野はあるし、桐生の織物産業が培ってきた人や技術の集積が次の産業のゆりかごの役割も果たしている。その意味でやっぱり桐生は織物のまちなのだ。
ライオンの愛称は子どもたちが口にする。そこがとても重要であり、もちろん、大人がきちんと説明してやってほしい。
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