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心中をおしはかる

 今年の流行語大賞の一つに「忖度」が選ばれた。広辞苑を開くと、意味は「他人の心中をおしはかること」。森友学園や加計学園の問題で、権力を持つ側の顔色や言動から心中を推察し、その意向に沿うよう官僚が動いたのではないか。そんな文脈の中で繰り返し登場した言葉だけに、イメージはよくない。

 ただ、忖度という単語そのものには、良し悪しといった価値観が含まれているわけではない。その単語がどんな状況で使われるのか、それによって言葉のイメージは大きく変わる。

 1日に開かれた皇室会議で、天皇陛下の退位日を2019年4月30日とし、翌5月1日に改元すべきであると、意見がまとまった旨が報じられた。

 日程については率直に疑問を抱いた。改元は1月1日や4月1日といった暮らしの節目に合わせて行うべきではないか。生前退位ならばなおさら、その準備ができるはずではないのか。理由は不明瞭なままである。

 天皇陛下の活動については、メディア報道などを通じてよく知る私たちである。東日本大震災の後、被災地や避難者のもとを夫妻でたびたび訪れ、自ら耳を傾けて寄り添おうとする姿には、共感を抱くし、頭も下がる。

 昨年8月に公開された天皇陛下自身による「おことば」は、戦後憲法が定める国民統合の象徴として人びとの安寧を祈り、ときに寄り添うことを通じ、その役割を果たそうと努めてきた思いの吐露でもあった。

 生前退位をしたいという意向も、年齢を重ねるなかで自然に生まれたものだろう。陛下が考える象徴の務めをしっかり果たそうとすれば、年齢的な限界もあるはず。うなずける部分だ。

 明治憲法下、日本は天皇主権という国体の下で戦争を行い、数え切れぬほどの命が失われ、残された人びとは苦しんだ。

 戦後の憲法で規定された国民主権も、象徴天皇も、戦争を遠ざけるために人間が考え出した知恵である。条文で、天皇は国事行為のみを行い、国政には関与しないとも記されている。

 自ら象徴の意味を深く考え、実践してきた戦後天皇はいま、退位についても問いを発している。現在の天皇の地位は、主権者である国民の総意に基づく。陛下の心中をおしかはかりながら、象徴天皇の務めとは何か、生前退位とはどんな意味を持つのか。私たちもまた、考えなければならない問いである。
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