桐生地方卸売市場の一角に、群馬県の農政部が毎週公表を続けている、ある書類が保管されている。市場を訪れる誰もが閲覧可能なその書面には、県内で収穫された農産物のうち、いくつかの検体を採取して、専門機関が調査をした放射性セシウムの濃度が紹介されている。
例えば、2月24日に公表された最新号の内容は、沼田市のイチゴ、高山村のタラノメ、フキノトウ、嬬恋村のウドなど、施設や露地で栽培された農産物6検体について、いずれも放射性物質は検出されなかったといった報告で、第257回の通し番号が付けられている。単純に週に1度の検査なのだとすれば、第1回は5年前。東日本大震災に伴う福島第1原発事故の発生以降、休むことなく地道に続けられてきた食の安全を確保するための取り組みの証左である。
県産農産物の安全性を担保するためのこうした取り組みは、いまの消費者が求める安全志向というニーズとも合致する。
震災から5年の間にいったい何が変わったのかと、市場関係者と立ち話をするときに、できれば地域で栽培される農産物を食べたいという消費者意識の変化が、徐々にではあるが着実に浸透しつつあるのだと、そんな声がこぼれる。それは、例えばまちなかの料理店で、調理をする料理人らと話をするときに感じる意識の変化とも一致する。
地元でとれた旬の野菜を新鮮なうちに調理すれば、同じ野菜でも香りや味、歯ごたえが違う。先日も、とれたてのニンジンひとつで出汁をとり、それが立派なお吸い物にもなりうるのだと、料理教室で驚かされたばかり。地産地消の流れは、今後ますます強くなるはずだ。
一方で、5年という歳月をかけても、いまだ回復しきれぬ信頼がある。例えば福島県産の果物などは、現在も震災前の価格には戻りきらないという。放射線の数値をしっかりと測定し、安全性が確認できたとしても、消費者の心にいったん張り付いた不安のレッテルは、なかなか取り除くことができない。
公設市場では食料の安全性確保とともに安定供給にも力を入れている。それには地域の食材だけではまかないきれない実情もある。今は九州や四国、東海といった温暖な地から、春の野菜が徐々に増えている。いずれ東北・福島からの農産物も増える。レッテルはがしへ、まずは自分の意識から変えてみたい。
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