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いのち優先の施策を

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 福島第1原発の事故のあと、新しい規制基準のもとで初めて再稼働を始めた鹿児島県の川内原発の周辺地域で、事故発生時に放射線量を測定するモニタリングポストの性能が不十分であることが分かったと、報道があった。県が設置した48基のうち、ほぼ半数の22基は毎時80マイクロシーベルトまでしか測定できず、地域内の住民が即時避難をする目安となる毎時500マイクロシーベルトの数値を計測できないのだという。

 大津地裁による運転差し止めの仮処分命令を受け、現在稼働を止めている福井県の高浜原発では、京都府が計画に準じたモニタリングポストを設置する以前に、再稼働が始まってしまった事実も明らかにされている。

 再稼働そのものについては賛否のあるところだ。ただ、福島の事故を経験したいま、原発を再稼働させるのだとすれば、「原発事故は必ず起こる」という認識はどこの原発であっても大前提となるはずだ。事故が起きて放射性物質が放出されたとき、住民の生命を守るために、電力会社は、行政は、どんな準備をすればいいのか。そのことが問われ続けた5年間なのに、再稼働の条件として必要不可欠であるはずの避難環境の整備は、おろそかにされたままである。

 原発事故は、自然災害やほかの人為的災害と性質が違う。自然災害ならば、自助や共助の意識を高めることで、私や私たちのいのちを守るための行動に結びつけることができる。それは具体像を描きやすい。火災や交通事故といった人為的災害については、自ら対策を立てたり、被害を回避する努力も可能だ。

 でも、原発事故は違う。放射能は目に見えず、その土地がどれだけ汚染されたのか、自分がどれだけ被ばくしたのか、自覚がない。それどころか、被ばくの量とからだの異常との関係さえ、目安はあるもののあいまいなままである。不安を抱えながら、住民は完全な受け身となり、異常を示す数値と公の指示を頼りに行動するしかない。

 福島第1原発の事故で放射性物質は拡散し、東北や関東地方など広範囲に降り注いだ。150キロ離れた桐生みどり地域も、その影響下にあることが分かった。原子力を利用するのであれば、見合った対策をとるほかに道はない。できないのであれば利用はしない。東日本大震災以降の、スタンダードな価値観を確立しなければならない。
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