高校野球の取材でのこと。その試合は桐生勢対決で、両チームの応援はもちろん、「球都桐生」のファンも集まり、球場はえらい盛り上がりようだった。少年野球のユニホームを着た子どもたちの姿もあり片方のチームのスタンドで応援団に交ざっていた▼ご存じのとおり、野球応援はチームの攻撃時が主となる。自チームが守備についている間、応援歌や鳴り物は禁止。この小学生一団も、座った側のチームが攻めている間に応援するわけだ▼ところが、私の横に座っている1人の少年は攻撃になっても座ったまま。チャンステーマも、長打や得点の場面にも、ぎゅっと手を握りしめ、ただ試合の行方を見守っていた。聞けばこの少年、対戦している両チームのファンで「どちらかだけを応援できない」という▼事情を説明する彼の真面目くさった表情がとても印象的で、その誠実さと優しさは、すがすがしい▼好きなものはいくつもあって年をへるごとに増えていく。それらが相反するときもしばしばで、選べないときにもごまかさず、その事実に向き合っていくのは至難の業。だからこそ、ちゃんと「選べない」と言い切った彼の表情が記憶に残っているのだろう▼子どもにはかなわないな。(並)
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選ばない
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