晴れた日の午後、南方の空高く、くっきりと一筋、飛行機雲が伸びている。視野を広げてみると、あちらに、こちらに、幾本もの細長い雲が見つかる。上空の強い風にあおられ、時間とともに流れて崩れ、やがて消えてゆく▼上空に冷たい空気が入ると、飛行機雲が出現しやすい。機体から放出される湿った排ガスが冷やされ、飛行機の航跡を示すようにまっすぐな雲が生まれるわけで、航行する高度の気温が、出現のかぎを握ることになる。飛行機雲が目立つようになれば、冬はすぐそこ▼別の日の明け方、東の空に金星、木星、火星が接近していた。明るくなり始めた山際では、水星のかすかな光も見える。一片の雲もなく、風もない、穏やかな夜明けの光景。それでも、星のまたたきをみると、上空では強い風が吹いているようだ▼どこからか「ひっ、ひっ」と、聞き覚えのある小さな鳴き声が届く。あれはたぶんジョウビタキ。季節風とともに海を渡り、はるばるこの地に到着したのかと、見えない鳥の姿を思い浮かべつつ、うれしい気持ちになる▼ある場所に立ち止まり、現象を観察する。そして、そのわけを想像する。知らぬ間に流れてしまう時をとどめるための、ささやかな抵抗手段。(け)
関連記事:
↧
変化のわけ
↧