集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法が29日、施行された。日本の存立を脅かす明白な危険がある「存立危機事態」だと政府が認めれば、日本が直接攻撃を受けなくても自衛隊の武力行使が可能になった。
日本の平和安全に重要な影響を与える「重要影響事態」の際には、地理的制約なしに自衛隊が他国軍を支援できるようにもなった。米国との同盟関係も強化され、いっそうの抑止力が期待されると、政府の言い分だ。
2014年7月、政府は閣議決定という手法で従来の憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使容認へと大きく舵を切ると、15年9月には安全保障関連法案を審議し、自民党、公明党に加え、日本を元気にする会、次世代の党、新党改革の野党3党を含む賛成多数で可決成立した。
弊紙でも節目のたびに市民の声に耳を傾けてきたが、安全保障法に対する私たちの理解は、おそらく変わらぬままだろう。
日々の暮らしの中で、武力行使という事態を想像することは難しい。一昨年、群馬大学の大学生たちと話をしたとき、「集団的自衛権って何ですか」「安全保障法案ってなに」「閣議決定とは」と、用語の一つ一つに首をかしげていた学生たちの姿を今でも思い出す。
一方で、戦争体験を踏まえたお年寄りからは、戦争につながるような憲法解釈や法律の制定には、とにかく反対するといった声が多かった。法律の内容などよくわからずとも、自分たちの孫の世代が「あのような戦争」に巻き込まれることだけはどうしても防ぎたいと、体験者たちの声にぶれはなかった。
法案成立の過程に不安を覚えるという声も少なくなかった。集団的自衛権の違憲性はもちろん、存立危機事態の適用範囲なども政府の解釈一つで変化するらしく、法律として安定していないのではないかと、そんな危惧の声である。
多くの国民が疑問を抱える中で、法律は施行された。海の向こう、米国では大統領選挙の指名候補者選びが繰り広げられており、結果しだいでは日米関係の大きな変化の可能性もはらんでいる。欧州のベルギーでは爆弾テロ事件が発生し、2人の日本人が被害に遭っている。
さまざまな溝が深まり、情勢が時々刻々と変化する世界で、ますます重要になるのは外交、つまり対話にほかならない。そのことだけは肝に銘じたい。
関連記事: