「天上天下唯我独尊」。生まれてすぐに7歩進み、右手は天を、左手は地を指してのたまわったというスーパーベビーは、さすが、後に釈迦となられた。4月8日はその誕生日とされ、生地ネパールのルンビニ園を模した花御堂に誕生仏をまつり、甘茶を灌いでお祝いする。灌仏会、花まつりである▼子どものころは甘茶が苦手で、麦茶に砂糖を入れるならもっと入れればいいのにと勘違いしていた。アマチャという木の葉をお茶にすると知って、驚いたものだ。今春は吾妻公園下の光明寺で偶然、ふるまいを受けた▼じゅうぶん大人になって、桜花を見上げながら甘く苦い茶をいただく。熱々の茶が身体をめぐってほっと、生きていると、一個のいのちであると、感じられた。私も、天の上にも下にも唯一の存在である。まだ旅の途中で、駆け出していきたくなる▼「花の下にて春死なむ」との願いがかなったのは西行、北面武士から出家した漂泊の歌詠みだ。車いすで最期の花見をした友さっちゃんが釈迦涅槃のこの日に逝ったと聞いたのは、下山してネパールに戻ったときだった▼桜は満開を豪奢に極めて舞い、地へと散り敷く。短い間に生死を鮮やかに際立たせて、毎春の心を騒がせる。(流)
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