漫画家の吉野朔実さんが亡くなった。ゴールデンウイーク中日に流れたニュースに心の一部を失うような衝撃を感じた▼吉野作品との出あいは集英社の少女漫画雑誌「ぶ~け」で連載していた「少年は荒野をめざす」。ちょうど思春期。少女であることを拒否し、「世界よ凍りつけ」と願う主人公の狩野都に自分を重ね、彼女と一緒に走りながら女性であること、大人になること、自分とは何かと考えた▼2003年に文庫本が出たときは迷わず購入。昔感じた痛みは心の奥にしっかり残っていたが彼女を見る立ち位置が、友人から周囲の大人へと変化し、だいぶ遠くに来たものだと思った。だからこそ、この大きな喪失感に戸惑っている▼しかし、彼女の訃報に際し、多くの漫画家が悲しみの声を上げた。その中にはいま影響を受ける作家も多い。ああ、こうやって思いは受け継がれ、歴史は続いていくのだ▼彼女の中で最も好きな作品は「恋愛的瞬間」(小学館)である。心理学者と教え子の男子学生を中心に依存、ストーカー、DVなど、今に通じる心の問題が描かれている▼漫画の映像化は常に物議を醸すが、若い世代にこの作品が届くのならばアニメやドラマになってほしいと願う。(野)
関連記事:
↧
私をつくるもの
↧