明治22年「群馬県桐生第一物産売買所」の銅版画がある。木造瓦屋根で下屋を設けた長屋が両側に続き、馬車や人力車を止めて入った通りは荷を担ぐ人たちで大にぎわい。正月の浅草仲見世のようだ。奥に蔵群、背景には姿変わらぬ吾妻山▼桐生の絹市は江戸中期に盛んに織られた紗綾織を天満宮境内で取引した紗綾市があり、明治15年の七県連合繭生糸織物共進会の翌年、その建物を買場として物産売買所ができた。永楽町に下市場が開設されて上市場とも呼ばれる▼銅版画に描かれた時代をしのばせる建物が、先週末に燃えてしまった。往時のにぎわいを取り戻すべく20年以上続く買場紗綾市が開かれた夜だった。買場ふれあい館、4カ月がかりの修復が終わったばかりだった▼実行委員長の森壽作さんは「これも試練」とへこたれない。桐生新町重要伝統的建造物群保存地区が実現したのも長年の運動の上に、東日本大震災の被害が建物への関心を惹起し安全安心なまちづくりへの結束を促したのだ▼地区内の特定物件は180、修復は年に9件としても20年かかる。重伝建の保存整備とは息長い事業である。目先にとらわれず、誇りを持って悠々と、しかも着実に、進むことを願う。(流)
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買場ふれあい館
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