広島に原爆が投下され、世界が一変した。それから71年がたつ。今年もまた、原爆資料館に“新しい”遺品が届いた。ずっと持っていたワンピースやブラウスは、汚れ焦げ破れ染みがついていても、思い出の大切なよすがだったのだろう▼石内都さんはまた、広島に赴く。私物だった遺品は貴重な資料として公的に、後世に保存される。地下の収蔵庫から運び出してもらい、自然光の中に広げ整えて、それを着ていた夏の日の少女を感知する。いずまいを正しての撮影は「念写」だと、石内さんはいう▼高校時代に図書館で開いた写真集「ヒロシマ」は、気持ちがざわついて最後まで見ることができなかったそうだ。写真家の思想、時代の証言者としての写真。二度と見たくないというのも写真の力だが▼石内さんの写真はカラーで、親身で、はかなげに美しい。凄惨な大量死より失われたかけがえのない生身を想起させて、切ない。その写真集「Fromひろしま」をオバマ大統領の広島訪問時、資料館はミシェル夫人宛てに贈ったという▼被爆体験の語り部たちも、やがてはいなくなる。核なき世界を願うに必要なのは、想像力になるだろう。女文字でこそ伝わっていくものに期待したい。(流)
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