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象徴天皇の問いかけ

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 人間が生きものである以上、老いという生理現象から逃れることはできない。80歳を超えた天皇陛下がきのう、象徴としてのお務めについて、ビデオメッセージという形で現在の「お気持ち」を表明した。体力面などの衰えを十分に自覚し、これからの自分の在り方や公務について、どうすれば社会に混乱をきたすことなく次の代に引き継ぐことができるのか。こうした考えに思いを致すことは、自然なふるまいのように思われる。

 ただ、こうした不安な気持ちを、ビデオメッセージという手法で直接国民に向けて発せられたこと自体には、どこか新鮮な感覚がある。メッセージの中でも語られていることだが、今上天皇がこれまでの公務で、被災地をはじめ日本全国津々浦々を訪れ、その地で暮らす住民たちの小さな声に耳を傾ける中で、じっくりと培ってきた国民への理解と信頼が、今回の行為を裏打ちしているのだろうと、それは率直に感じたことだ。

 日本人だけで300万人もの尊い命が失われた戦争が終わり、新しい憲法が誕生した。その第1条に掲げられたのが、「天皇は日本国の象徴で、国民統合の象徴であり、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」の一文である。

 メッセージにある「日本の皇室が、いかに伝統を現代に生かし、いきいきとして社会に内在し、人々の期待に応えていくかを考えつつ、今日に至っています」という言葉からは、皇室が単なる制度ではなく、国民からかい離してはならないものなのだという強い気持ちがにじむ。そこには憲法第1条への思いとともに、アジア各国や米国、豪州などを巻き込む戦争へと至った戦前への、戒めの気持ちも含まれているのだろう。

 メッセージからは生前退位の意向もくみ取れる。不安を抱く高齢の天皇陛下に対するいたわりの気持ちは、私たちにとって自然な感情でもあり、生前退位については今後、国民全体で考えていかなければならない課題であるはず。象徴天皇とはどのような役割なのか、どうすれば過ちや悪影響の可能性を小さくできるのか。これまで一貫して模索を続けてきたという天皇陛下が、信頼を寄せる国民に対して投げかけた問いかけに、こたえてゆかなければならない。

 憲法のもとで天皇は国政に関する権能を有しない。それを踏まえつつ、考える時期である。
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