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観察から生まれる

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 今年のノーベル医学・生理学賞の受賞者に、東京工業大学栄誉教授の大隅良典さん(71)が選ばれた。細胞が、内部で不要になったたんぱく質などを分解する「オートファジー(自食作用)」という仕組みについて研究し、解明した。そのことが高く評価されたのだという。

 外部からの栄養供給が滞ると、細胞は自らの内部にあるたんぱく質などを分解して、新しいたんぱく質の材料にしたり、エネルギー源として再び利用する。また、古くなったり傷ついたりしたたんぱく質を分解して、細胞内を浄化する役割も担っている。私たちの細胞をはじめ、細胞に核のあるすべての生物には、このようにたんぱく質をリサイクルするシステムが備わっているというわけだ。

 こうした基礎研究が、さまざまな科学者や技術者に応用され、私たちの暮らしの中で具体的に役立つようになるまでには、まだしばらく時間がかかりそうだ。それでも、がんやパーキンソン病といった困難な病気を抱える患者やその家族にとっては光明であり、こうした未来への希望を人びとに届けることも、研究者たちの大切な役割の一つなのだと、改めて思う。

 研究内容を深く理解することは難しいのかもしれないが、ノーベル賞を受賞した研究者たちの姿勢には、毎回はっとさせられる要素が含まれる。報じられているところでは、大隅さんの基本は顕微鏡での観察にあるようで、このことは私たちの普段の暮らしにも通じる、見つめ直してみたい視点である。

 毎月最終土曜の本紙に「折々の鳥たち」を連載している竹内寛さんはあるとき、普段見慣れているツバメの巣にイワツバメが営巣していることに気づいた。観察を続けると、ツバメの巣に似た形状の巣をつくるイワツバメが、ほかにも存在していることが分かってきた。ただ、こうしたイワツバメの生態は、まだ詳しく調べられていないせいなのか、図鑑などへの記載も少ないのだと、連載の中で竹内さんは指摘している。

 研究の領域や質にこそ、それぞれ違いはあるものの、その起点となる疑問は、私たちの生活のそこここに探し出すことができる。いつもと違う状態に気づくということは、社会や文化を築いてきた人間という生物の根幹にかかわるポイント。いつもの状態を観察し続けることに、もっと意識を向けてみたい。
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