Quantcast
Channel: ウェブ桐生タイムス
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2430

本と出あうチャンス

$
0
0

 群馬大学理工学部の学園祭でブックリユース市というイベントが開かれていた。リユースとはもう一度使うという意味なので、つまりは古書市である。

 大学という場所だけあって、出品されていた書籍の中には、一般の古本市ではほとんど見かけないような、専門的な雑誌類や学会誌なども少なくなく、「なるほど」と思わせる品ぞろえ。大学の図書館で保存期間の切れた書籍や、教職員や学生に呼び掛けて集めた私物図書なのだと聞いて、改めて納得した。

 明るい部屋の中に並んだ背表紙を眺めながら、学生たちが気になる一冊を手に取ってはページをめくり、さっと一読する。たまたま巡り合った本を抱きかかえる姿が好ましくて、つい見とれてしまった。大事なものを手に入れたときの喜びが表れているように思えたからだ。

 出品された本の冊数はそれほど多くはない。だからこそ気になる1冊と出あう確率が高くなる側面もあるだろう。インターネットという道具は、探す対象が明確な場合はじつに便利な道具なのだが、見知らぬ本に出あう機会となると、めっきり減ってしまう。それよりも、書店や図書館に出向いた方が、意外な本と巡り合う機会は増える。

 学生時代に通った書店は、店主の好みがはっきりしており、足しげく通う固定客も多かった。店主が自分の読みたい本を用意してくれているかもしれないと、そんな期待を抱きながら、月に1度は必ず通ったものだ。

 日々出版されるあまたの書籍から、誰かが本を選んで書棚に並べる。新聞や雑誌を編集する作業に似ているのではないかとも思った。古書店となれば、その傾向はさらに顕著である。

 桐生のまちなかで、古書を活用してまちの活性化を図ろうと、有志たちが取り組みを始めている。それぞれの家庭や施設などで眠っている本のうち、お薦めの書籍などを参加店に持ち寄ってもらい、各店に備え付けた本箱に加える。本の出し入れは誰でもできるというゆるさが取り組みの特徴のようだ。

 休眠中の本は膨大なものだろう。こうした本をコミュニケーションの道具に使い、まちを元気づけようという発想は楽しい。店の主人や訪れる人の個性が、並んだ本から見えるくらいになればなおいいだろう。課題はあるはずだが、古くて新しい財産の発掘につながるのか、応援したくなる試みだ。
関連記事:


Viewing all articles
Browse latest Browse all 2430

Trending Articles