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ホッとできる世の中を

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 「うたは世につれ世はうたにつれ」だそうである。時代という鉛筆が人の心に残していく軌跡はいつも一筆書き。うたはその模様を映し続ける鏡である。

 ふと聞こえてくるメロディーが心の琴線に触れ、たぐり寄せると、先のことなど分からなくても懸命に過ごしていた日々の思い出が随所につながっていたりする。そういう経験はきっとだれにでもあることだろう。

 そして懐かしく口ずさんでみれば、一瞬ではあるが、心はニュートラルになる。その静穏こそが大事だと常々感じてきた。

 ことしも世の中で起きたさまざまな出来事を新聞やテレビやインターネットのニュースで見た。数があまりに多すぎて、結局は感情を消費してきただけなのかという自省もある中で、その記述から、しばし目を離すことができなかったものもある。

 たとえば、中学2年のときに同級生にいじめられ、暴行を受けて意識不明になった少年の話である。さいたま地裁川越支部が22日、同級生と保護者と市の責任を認め、損害賠償を命じたが、その訴訟判決の内容を伝えた新聞記事の最後に、原告側の話として「少年は19歳になったいまでも寝たきりのままだが、小さな頃に聞かせた音楽を耳元で流すと目に涙を浮かべるなどの反応がある」というくだりがあって、深く身につまされた。

 いじめに関してはことしもまた、たくさんの悲しい出来事があった。そして児童虐待も。

 どのような状況の中でなぜこのようなことが起きるのか。そして、どうして未然に防げないのか。集団の中における規範のありようや社会の抑止力への期待値は、考えても考えてもなかなか推し量れないままだ。

 同様に国際情勢も混沌とした状況にあり、こちらもまた、不幸な事件が後を絶たなかった。

 そして、重苦しいニュースの合間にスポーツ選手の活躍があり、断ち切れそうな気持ちをつないでくれた。顧みて、そんな年であったように思うのだ。

 世界を相手に多忙な日々を過ごしている知人から、クリスマスに手紙をいただいた。そこには「いま世界的におかしくなりつつある中で、人間らしく、人の社会のあり方を根底から問い続ける作業がますます必要ですね」とあった。静かな心で、ささやかでいい、ホッとできる世の中を見すえたいものである。

 当欄新年は6日から。読者のみなさま、よいお年を。
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