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利便性のひずみ

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 ある日の午後3時ごろ、八百屋さんの店先で店主と立ち話をしていた。買い物客が次から次へとやってきてはひとしきり店内をのぞき、必要なものを買い求めてゆく。小さな店舗に商品の種類は限られている。品定めにかける時間は短く、店主との言葉のやりとりも端的でとにかく早い。その様子を眺めながら、すがすがしい気持ちになった。

 生鮮食品のほかに調味料や菓子なども置いてあり、こうしたちょっとした品物が意外に重宝がられるのだと、店主は話す。どんな品物をどの程度仕入れておけばよいのか、長年の商いでつかんだ感覚が、その日の品ぞろえに反映されているわけだ。

 ご近所で体調の悪い人がいれば、電話で注文を受け、品物を自宅まで配達する。顧客の高齢化が進み、外出困難な人も増えており、こうした小回りのきく宅配サービスや移動販売などが身の回りの小さな経済圏を支えているのだと、改めて思った。

 パソコンやスマートフォンの画面を眺め、ほしい商品を選んでボタンを押せば、翌日にも品物が届く時代である。「ほしい物をいますぐ手に入れたい」といった消費者の意欲をそがないように、注文から商品が届くまでの時間差をどれだけ短くできるか、大手通販や物流各社が手を組み、競い合っているようだが、利便性が増せばその分、どこかに無理が生じるはずだと、これは感覚として理解できる。

 昨年の暮れ、配送会社の配達員が、預かった品物を地面に投げつけている映像が公開され、物議をかもした。年の瀬に扱う荷物が急増し、配達時間が大幅に遅れたといったニュースも気になった。これらの原因は一つではないのかもしれないが、少なくともその仕事に携わる人に大きなストレスが生じているということは想像がつく。

 商品の移動距離が長くなればその分、移動に必要なエネルギーも増えるはずで、環境への負荷は大きくなる。低炭素社会を実現するためにも、エネルギーロスを小さくし、小さな経済圏の中で人やものを動かした方が効率的なはずだ。

 手の届く経済圏を基本とし、与えられたものの中から商品を選び、暮らしを成立させてゆく。そのことが結果として、自分が住む地域を支える行為につながり、老いても暮らしやすい社会を実現することになる。利便性が増す時代だからこそ、意識的にとらえてみたい視点だ。
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