渡良瀬川太田頭首工の広沢町側に魚道がある。古い魚道で、短く狭い上に流れは急。小さな魚にしてみれば、遡上はおそらく困難。それでも毎年秋になると、この魚道をサケが上り、産卵に適した砂地を探し求めて、最後の旅を続ける。今年はどうかと、先月、訪れてみた▼川の観察を日課にしているという地元住民の話では、今年はサケの数が少ないという。驚いたのは、渡良瀬川の流れの形が変わっていたこと。9月の豪雨で、ある場所では川底が深くえぐられ、ある場所では石が堆積し、昨年まであった穏やかな瀬の面積が狭まっている▼この魚道の入り口はもともと狭い。サケにしてみれば「見つけにくいんですけど」と、こぼしたくもなるのでは。その上、入り口にたどり着くまでの流路も複雑で、毎年、遡上を諦めてここで産卵を済ませる魚も多い。訪れた日も数匹のサケが行ったり来たり、思い悩むようすだった▼広大な北太平洋をめぐり、4年の歳月を経て、ふるさとの川に戻ってみたら、阻むものが多い。地震、津波、水害と、自然災害の影響は仕方ないとしても、人の手によるバリアーは、せめてフリーにしてあげたいと、長い旅を終えようとしているサケを眺めながら思った。(け)
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