1台の古びた道具に新しい命が吹き込まれた。地域の専門店はやはり頼もしい存在である。
この道具は記者が10年前に購入したチェーンソーである。里山整備や玉切りが目的だからある程度性能が求められたが、あくまで素人の趣味で1シーズンに何度も使うわけではない。新品ではなく、中古を選んだ。
最初の2年は順調に働いてくれた。やがて故障して、直ってはまた調子が悪くなるという繰り返しに。林業者から「チェーンソーは自分で直せないと金ばかりかかるよ」と言われたが、自分では打開できず、この数年はそのとおりの状況だった。
「中古だから仕方ない」「故障がちだから前の所有者も手放したんだろう」と、そんな勝手な思い込みであきらめ半分、新品の物色をかねて各地の量販店めぐりを始めたのは昨年のこと。
しかし量販店は自分で品定めをするのが基本だから、希望の性能を備えた道具を、目が利きかない記者が選ぶのはつらい。
考えて、買うなら地元の専門店だと決め、まずは最後の修理のつもりで知り合いの職人がすすめてくれたその店を訪ねた。
店主はすぐに目の前でチェーンソーをばらし、想定される原因をあげてから「部品交換で大丈夫、これは良い品物だからまだ使える」と言った。だめなら新しく買うつもりだったのに「そんな必要はない」というのだ。
1週間後に来店すると「これはずいぶん使い込まれた道具だね」と、交換した部品の摩耗具合を説明してくれた。それから動かして回転やオイルの状態を調整し、この一台だけが持つ特有の癖とその対処法を教えてくれ、メンテナンス上の注意を念押しして、手渡してくれた。
はずれの中古品だと思い込んできたいらいらが一気に氷解したのは、専門店の真摯な対応と的を射た解説のおかげである。
帰り際に「オイルがたれて車が汚れる」と、下敷き用に数日前の新聞を添えてくれた。桐生タイムスだ。うれしかった。
日々の新聞が地域の暮らしの隅々にしっかり入り込んでいる姿は私たち記者の励みである。
もちろんこうした専門店はさまざまな業種で、地域にまだたくさん残っていることだろう。
私たちが少しいいものを長く使おうとすれば、欠かせないのが頼れる店の存在である。そして確かな技術とは暮らしの安心の後ろ盾なのだと、そこに気づく場面がきっとあるはずだ。
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