朝の空を覆っていた雨雲が消え、気持ちのいい青空が広がった日。赤信号で止まった車の運転席から、前方に見えるケヤキの大木を眺めていた。色づいた葉が次々と枝を離れ、はらはら舞い落ちている。そのリズムは一定で、密度もほぼ均等▼車の窓を開けてみたが、風はない。原因は、気温か、湿度か、雨上がりという天候の変化か。あるいは、人には感じ取れない秘密の合図があって、それを受け取った葉は順序よく枝を離れるようにと樹種ごとに定められたルールでもあるのか▼ネットでそのからくりを調べてみたくもなったのだが、それはだめだと思い直した。落としどころが見つかると、とたんに色あせた風景になってしまうのが目に見えていた。ある光景にひかれるのは、そこに影のようなものが存在しているからだ▼言い方を変えれば「謎」であり、「魔」なのかもしれない。謎や魔の正体が分かると人は安心するのだが同時に魅力も消えうせてしまう。見えない秘密のルールの存在におののきながら、なぜ、どうしてと、あれこれ想像をめぐらす方が楽しいし、光景も記憶に焼きつく▼まだしばらくは落葉の季節。色づいた紅葉の景色ともども、謎の答えをあれやこれやと探ってみたい。(け)
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