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染太郎の色紙

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 変わらぬたたずまいの「染太郎」に、久しぶりに入った。浅草のお好み焼きの老舗。今年第64回安吾忌はこの店を貸し切りにして行われた▼浪花節や三味線芸人の林家染太郎が昭和12年に出征し、妻ハルさんが幼子を育てながらできる商売として自宅で火鉢に鉄板を乗せて始めたのだという。ハルさんの人柄ゆえか浅草の芸人や踊り子さん、数多くの文士も足しげく通った▼そのうちの一人が坂口安吾先生である。酒を飲み二階に泊まり込んで原稿を書いた。ハルさんや息子は深夜に原稿用紙を買いに行かされたり、近くに住む作家に伝言を頼まれたりしたこともあったそうだ▼酔って鉄板に手をついた先生の、火傷の手当てをしたのもハルさん。それを「テッパンに手をつきてヤケドせざりき男もあり」としたためるのも安吾らしく、色紙は鴨居の特等席に飾られている▼渥美清は「うれしくてやがて悲しき道化かな」。江戸川乱歩の「昼は夢 夜ぞ現」に見入る。永六輔は「お染焼きしゅうまい天パンカツ焼そばを喰べました」と満足げ。大島渚は「遅れて染太郎へ参りました」▼客層は変わったろうが昭和の情緒たっぷりで歴史が染みついている。今は外国人も楽しませて、行列のできる店だ。(
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